
手織ラグの店クラフトワーク
ギャッベはイラン南部のカシュガイ族やルリ族などの遊牧民が、生活の中で織り続けてきた厚手で素朴な絨毯です。人気の高まりとは裏腹に遊牧民の織り手は年々減っており、その需要を満たすように「ギャッベ風」の絨毯が多く出回るようになりました。 手織りならではの魅力は十分に楽しめるものが多いのですが、これらの「ギャッベ風」はあくまで“デザインを真似したもの”であり、制作背景や素材、織り方はギャッベとは異なります。
ギャッベは一枚ずつの個性が強いことが特徴のひとつです。織り目の密度や手触り、厚みや重みもそれぞれに異なり、軽いものや、やわらかなものなど質感も色々です。 上記はあくまで目安としてお考え下さい。確かなギャッベを求めるためには、信頼を置ける販売店を選ぶことが重要です。
見た目は似ていますが、ギャッベの一種ではなくギャッベデザインのインド産絨毯です。 本物と見分けのつかないほどよく似たものもあり、品質も年々向上しているので手織りの絨毯として十分に楽しめます。 ただしウールの質も織り方もギャッベとは異なり、ギャッベならではの草木染めや手紡ぎ糸の風合い、堅牢さという特徴はありません。
アフガニスタン、パキスタンで織られるギャッベデザインの絨毯も出てきています。 これらの絨毯はイランに運ばれて「ギャッベ」として販売されますが、絨毯を扱う専門家であれば一目で判別できるものがほとんどです。
織り手が減少し、さらに一枚ずつの織りに時間がかかるカシュガイ族のギャッベの代わりに、イラン各地で織られた代替品も市場に多く出回っています。 イラン北部のマザンダラン県など、絨毯織りの伝統を持つ各地に業者が依頼し、図面をもとに制作されます。 こうした絨毯は利益を優先して手早く大量に織られる傾向があり、少し織りの甘いものが目立っています。
ギャッベは本来ダブルノットという結び方で織られますが、シングルノットのギャッベも増えています。 シングルノットは少ない素材で速く制作できる技法で、時間のかかるダブルノットに比べて安価に仕入れることができます。 裏面の見た目はダブルノットよりも細やかに見え、毛並みを細かくほぐしたものなどは高級感があります。 織りの密度が低いため持ち上げてもあまり重みがなく、ギャッベならではの耐久性はありません。
見た目ではわかりにくいギャッベと「ギャッベ風」の違いですが、構造の違いを感じる方法はあります。
①毛足のある方を内側にして畳んでみる:簡単に畳めて、親指と四本指の間に弾力や張り、腰を感じないものは「ギャッベ風」の可能性大。
②角から20cmほど毛足を内側に三角に畳んでみる:本物は弾力がありすぐに元に戻ります。くたっと折れて戻らないものはギャッベ風。
なお、ペルシャ絨毯は一般的に目が細かいほど丈夫ですが、ギャッベの場合はあまり関係ありません。
むしろ裏面の細かいギャッベは少し注意が必要で、横糸の数を減らして織り上げてある場合があります。そうしたギャッベは腰のないやわらかな質感になり、上質な印象を与えることもあります。
伝統工法で織られる本物のギャッベは非常に堅牢で、そして何より大変な手間がかけられています。 手で紡がれる一本一本の糸は、繊維を裁断する機械紡ぎの糸に比べて長い繊維がそのまま保たれ、 しなやかで切れにくい性質を持ち、使うほどにじんわりと艶が生まれます。 結び目は一段ごとにしっかりと叩き詰められ、その段と段の間には3本の横糸が通されます。 1本目と3本目には細い糸を、2本目は太い糸を用い、それぞれの横糸を縦糸に互い違いに通して編み上げることで、結び目が動く余裕をなくします。 経糸と太い結び目、そしてきっちりと詰められた3本の横糸が重く強固な基礎を作り、踏むほどに繊維がくっつきあってフェルトのように締まり、さらに堅牢さを増してゆきます。 一見ざっくりと見えるギャッベの織りは慈しみを込めながら、手間と時間を惜しまずに強く織り上げられているのです。
ギャッベの強さの秘密である3本の横糸を編み上げる作業には、結び目と同じくらいの手間がかかることさえあります。 多くのギャッベ風絨毯ではこの3本が1本に簡略化されて格段に速く織り上げられるものの、間引かれた構造は見た目では判別できず、裏面を見るとより細やかに織られているように見えることもあります。 また、寒い冬に育て春に刈り取られ、手で紡がれるカシュガイ族の羊毛は紡ぎ方や染めによって最初の手触りはさまざまですが、 長く使えばどれも同じように柔らかく育ち、自然な艶が生まれます。これは時間をかけて少しずつ育つものであり、機械紡ぎの毛足を叩いてなめらかにしたものの方が、初めはより艶やかに見えることすらあります。 時間をかけて実直に織り上げられるギャッベはその分価格も高く、数も限られます。そのためあふれるギャッベ風絨毯の勢いに押され、本来の良さが知られにくくなっているのが現状です。 それでもなお、心を込めて昔ながらの技法で織られる本物のギャッベを選び、受け継がれる美しい伝統を支えてゆけたらーーそんな願いを込めています。