手織ラグの店クラフトワーク
ギャッベは、イラン南西部、ザグロス山脈に抱かれた大地で生まれました。 この地には、カシュガイ族やロリ族をはじめとする遊牧民が暮らし、羊を追い、季節ごとに移動する生活を営んできました。豊かな牧草と温和な気候に恵まれたファルス州やフゼスターン州は理想的な放牧地であり、その羊毛を生かして織られたのがギャッベです。
ギャッベは、もともとは生活の必需品でした。 厚い毛足をもつこの絨毯は、遊牧民のテントの床に敷かれて冷たい大地から家族を守り、夜には毛布のように体をあたためる役割を果たしました。嫁入りの際には、娘が自ら織ったギャッベを持参し、家族の絆や母から娘へと伝えられる物語を織り込みました。素朴で力強い文様のひとつひとつは、羊の群れや生命の樹、日々の祈りといった遊牧の暮らしの象徴でした。
やがてギャッベは、地域ごとに少しずつ異なる表情を見せていきます。 北部のママサニ族やクルド系の部族は、それぞれの土地に根ざした色彩や文様を織り込みました。イラン最古の民族といわれるロリ族のギャッベは、より素朴で力強く、自然と共にある暮らしを強く感じさせます。 一方、ファルス州のカシュガイ族は高度な染色技術と優れた色彩感覚を誇り、明るい赤や黄色を大胆に用いた鮮やかな色彩を自在に操り、遊牧民の自由な感性を映し出しています。
ギャッベは長いあいだ、外の世界に知られることなく、遊牧民のテントの中でだけ息づいてきました。 19世紀には旅行者や研究者によってその存在が記録され、20世紀後半になると芸術性が注目されて世界に広く紹介されるようになります。今ではペルシャ絨毯の中でも特に人気を集め、美しくユニークな色模様と、気兼ねなく使える丈夫な品質によって、世界中から愛される存在となりました。
遊牧の暮らしの中から生まれ、家族を守り、物語を織り込んできたギャッベ。 その一枚には、大地に根ざした人々の生活と、時を超えて受け継がれる伝統の息づかいが込められています。