ペルシャ絨毯はすべて人の手によって織りあげられます。一本一本の毛足を結ぶ時間のかかる工程は、強靭な品質と繊細な美しさを生みだします。 一方、ノット数や結びの方式など、わかりにくく難しい印象も。このページではペルシャ絨毯の織りの構造と品質の関係、見るべきポイントを解説します。
ペルシャ絨毯の織り方
水平織り機と縦型織り機
織り機は大きく2種類。地面に水平に設置する水平機は組み立てが容易で持ち運びに便利なため主に遊牧民が使用します。もう一つは地面に垂直に据え付ける縦型織り機。町や村の定住民・工房で使われ、工房織りの多くは縦型機です。
手で結んでゆく毛足(パイル)
ペルシャ絨毯は縦糸・横糸・毛足(パイル)から構成されます。縦横糸にはウール、コットン、シルクが、毛足にはウールやシルクが用いられます。
まず縦糸に数本の横糸を交差させ平織りを作り、その上に毛足を縦糸へ結び(ノット)ます。横一列に結んだら横糸を通し、櫛で叩いて目を詰めます——これを繰り返し、最後に平織りで終えて織り機から外すと縦糸がフサ(フリンジ)になります。
結びには2種あります。縦糸に対称に絡めるトルコ結び(対称結び)と、非対称に絡めるペルシャ結び(非対称結び)。いずれも耐久性に優れます。
次の項では、トルコ結びとペルシャ結びの違いについて説明します。
(※「ジョフティ」と呼ばれる手法もあります。これは縦糸を4–6本まとめて結び、スピーディーに織りあがるかわりに、模様は粗めで耐久性も落る例外的な織りです。)
トルコ結びとペルシャ結び
トルコ結びとペルシャ結びはいずれもペルシャ絨毯の毛足の結び方で、経糸への毛足の絡め方が異なります。
トルコ結び(=対称結び)は毛足の両方の端を経糸に絡めて出すのに対し、ペルシャ結び(=非対称結び)では片方のみが絡められます。
どちらが用いられるかは地方や織りの系統により、トルコ結びはイラン北西部に、ペルシャ結びはイラン中東部の絨毯で主に見られます。
※ペルシャ結びはしばしば「シングルノット」と混同されますが、これらは全く別のものであり、結びの違いは品質の優劣とは無関係です。(余談ですが、トルコ結びはトルコの国とは関係なく、ペルシャ結びは別名セネ織りと呼ばれながらも、セネの絨毯はトルコ結びです。)
トルコ結びの特長
厚みのある、均一で強い毛並みが特徴。細かい文様の表現には少し制約がありますが、非常に丈夫で耐久性に優れます。主な産地は、タブリーズ、ヘリーズ、ビジャーなど。
ペルシャ結びの特長
トルコ結びのペルシャ絨毯よりもやわらかな風合い。結びを密に配置できるため、精緻な文様を得意とします。主な産地は、イスファハーン、ナイン、ケルマンなど。
選ぶときに気を付けることは?
しっかりと織られていればどちらも十分な耐久性があります。結びの違いが品質に及ぼす影響もないため、特に気にすることはありません。
ダブルノットとシングルノット
一般的なペルシャ絨毯はダブルノットで織られるのに対し、より簡素なシングルノットも存在します。シングルノットは薄手で軽く、耐久性はやや劣るのですが、裏面は一見とても細かく見える点に注意が必要です。
織り方の違い
ダブルノットとシングルノットの違いは、1セットの経糸2本を厚みの方向に並べるか、横方向に並べるかの違いです。
ダブルノットでは上下に重なる2本の経糸それぞれに立体的に毛足を絡めて1つの織り目を作ります。対してシングルノットは並列した経糸に絡めた毛足がどちらも裏面に現れるため、2つの織り目があるように見えます。
このためシングルノットは織り進むのが早く、同じ手間と素材を使って、倍の面積を織ることができます。ダブルノットの方が織りの密度が高く品質的に優れますが、シングルノットの方が目が細かく見えることがあります。
ダブルノットの長所
地織り部分に厚みと重みがあり、腰のある手ごたえと強い耐久性を誇るスタンダートなペルシャ絨毯。充実した毛足の弾力がクッション性を与え、薄くてもしわになりません。
シングルノットの長所
全体にくたりとしなやかな質感で、やわらかな印象です。ダブルノットの絨毯よりも軽く、布団のように折り畳むことが出来るので扱いが楽です。より手ごろな価格帯も魅力。
選ぶときに気を付けることは?
シングルノットの方が全体に安価ですが、一見織り目が細かいために高い値段がついていることがあります。疑問に思ったら販売店に確認することが大切です。
ペルシャ絨毯のノット数とは
ノット数は織りの密度を表す
織りの細かさは一定面積あたりの結び目数=ノット数で表します。単位は様々ですが、一般的には1平方メートルあたりで表記します。
産地特有の表し方もあります:
・タブリーズ産「Raj(ラッジ)」:7cmあたりのノット数
・ナイン産「La(ラ)」:縦糸の細さを表し、数が少ないほど高密度。
ノット数は種類によって幅があり、最も目の粗いギャッベでは6万ノット/m2くらいから、シルク絨毯では100万ノット/m2を超えるものもあります。
ウール絨毯では25万ノット/m2前後から細やかな表情が引き立ち、42万ノットを超えるとかなり精密な印象になります。
ノット数と品質の関係
ノット数が高いほど織り目は細かく、毛足の密度は高くなります。 織り地はより丈夫に、文様は緻密な表現が可能となるためノット数はペルシャ絨毯の品質のわかりやすい指標の一つとされます。 ただしの品質には他にも横糸の本数や打ち込みの強さ、ウールの質や染めなどさまざまな要因があります。 とりわけ家庭織りの絨毯では色模様の魅力や風合いなどが大切とされ、ノット数はあまり重要視されません。 また、裏面の細かさだけではノット数の判断が難しいこともあります。
選ぶときに気を付けることは?
投資など特別な場合を除き、ノット数はあくまで目安です。 色模様や毛並みの風合い、踏み心地などを確かめながら、目で見た印象を大切にしてください。
まとめ|品質を知って、自分らしい一枚を
ペルシャ絨毯の織り方や結び、ノット数は品質や価格を見極める大切な手がかりです。 ただし見えない部分も多く判断は難しいため、不安があれば納得できるまで説明を求め、信頼できる店を選ぶことが大切です。 最後は自分の目と感性で確かめることが長く愛せる一枚との出会いにつながります。