ペルシャ絨毯のデザインと文様の魅力
ペルシャ絨毯のデザインは、古代ペルシャの芸術と自然観を背景に発展し、サファヴィー朝時代の宮廷工房によって飛躍的に洗練されました。 千年を超える歴史と異文化との交流を経て生まれた多様な文様は、単なる装飾にとどまらず、織り手の精神性と美意識を今日に伝えています。
ペルシャ絨毯の基本デザイン(構図)
ペルシャ絨毯のデザインは、大きく「メダリオン」「オールオーバー」「生命の樹」「庭園(ガーデン)」などの構図に分類されます。 中央に円形や八角形の文様を置き、四隅に対をなすコーナーを配するメダリオン構図は、宮廷工房で完成された典型的な様式であり、整然とした対称性と緻密な装飾が特徴です。
典型的なメダリオンデザイン
①メダリオン:円形・八角形・星形などさまざまな形状がある。 ②サルトランジ:メダリオンに連なる小型の装飾。ペンダントとも呼ばれる。 ③フィールド:花文や唐草などの装飾が織り込まれる。④コーナー:四隅の部分。メダリオンの一部を反復させる「ラチャク」という装飾が織り込まれることもあり、全体の調和を生む。 ⑤ボーダー:複数の帯状文様で構成され、中心を引き立てつつ全体を引き締める役割を果たす。
ペルシャ絨毯の文様と意味|多彩なデザインに込められた美と象徴
ペルシャ絨毯には、生命の樹や庭園、鳥や動物、幾何学模様など、地域や時代によって多様な図案が織り込まれています。 それらのデザインは単なる装飾ではなく、自然への敬意や幸福・繁栄への祈りが込められています。 織り手の心と文化を映し出す多彩な文様の象徴性と深い意味づけが、ペルシャ絨毯を唯一無二の芸術へと高めています。
メダリオン
メダリオンとは、絨毯の中央に配される丸、楕円、ひし形などの形をした装飾模様です。宇宙的・神秘的秩序を象徴し、サファヴィー朝時代に構図の核として発展しました。形やサイズは様々で、2つ、3つのメダリオンが連なるものもあります。伝統的なメダリオンは産地や部族によって特徴があり、この形により産地を見分けることもできます。
サルトランジ
ペルシャ語で「サル」は頭、「トランジ」はメダリオンを意味しています。サルトランジとは構図の均衡を保つためにメダリオンの上下に配される飾りのことで、ペンダントとも呼ばれています。 吊りランプの形をしたものもあり、細かく彫られた模様から光がもれる、ペルシャ特有の美しい真鍮製のランタンを連想させます。
エスリム(唐草模様)
エスリムとはらせん状の渦を巻く枝に花々が咲き誇り、無数の葉やつぼみが分岐する蔦状の文様で、唐草模様やアラベスク模様とも呼ばれます。自然の統一や秩序、永遠を表すといわれ、くるくると無限の連なりを感じさせる躍動感に満ちたデザインです。
ヘラティ
丸い形の花(ロゼット)を核としてひし形で囲み、外側にしなる4つの小さな葉で囲んだ文様。現在はアフガニスタン領となっているヘラートの町に由来する名称です。 コラサン、ハマダン、アゼルバイジャン地方などに多く、丸みを帯びたものから幾何学形のものまで、産地によってさまざまなヘラティ模様が見られます。 細部にシルクを差す小さく繊細なヘラティもあり、フィールド全面のオールオーバーデザインにも好んで用いられます。葉の形が魚に似ることから、水、豊穣の象徴とも言われます。
シャーアッバース文様
シャー・アッバース文様は、サファヴィー朝のシャー・アッバース1世(在位1588–1629)期に宮廷工房で完成された意匠です。大輪の花を中心とし、しなやかな葉の文様やエスリムと組み合わせてデザインされます。 太陽や再生、瑞々しい生命力を象徴するこの文様は、イスファハン宮廷を中心に体系化され、ケルマン、カシャーン、タブリーズなど各地に広まり、現代にいたるまで織り継がれています。
パルメット(シャーアッバースの花)
シャー・アッバース文様の中心をなす、大輪の花のモチーフ。薔薇やダリア、蓮などの花の断面を様式化したもので、パルメットの名でも知られます。 幾重にも重なる花弁が放射状に広がる重層的な構成が特徴で、太陽や生命の輝きを思わせる華やかな意匠です。
ロゼッタ
ロゼッタ文様は、上から見た満開のバラを様式化した円形の花のモチーフです。同心円を基調に、花びらを少しずつずらしながら二重三重に重ねることで、複雑で立体的な美しさを生み出します。 メダリオンやヘラティの中心、縁飾りなど多様な場面で用いられる古典的な意匠で、神聖な光や太陽を象徴するといわれます。
マヒ柄
マヒとはペルシャ語で「魚」を表します。小さな丸い花の周りを囲む三日月型の葉模様が、昔は魚であったといわれることに由来する名前です。「ヘラティ」と同じデザインですが、タブリーズのヘラティは別格の美しさにより区別され、「マヒ柄」の呼称で愛されています。
パネル模様(ヘシュティ)
チェスボードのように方形を組み合わせたこの模様はパネル模様、またはペルシャ語でヘシュティと呼ばれます。フィールド全体を縦横に区切り、それぞれの四角いパネルには花や鳥獣、柳、花瓶、葡萄、ペイズリーなどが織り込まれます。 バクティアリ族の優れた伝統模様のひとつですが、クムやタブリーズなどの工房によって図案化され、数々の洗練されたデザインが生み出されました。
しだれ柳
しだれ柳は庭園や生命の樹に連なる図案のひとつです。古くはビジャーをはじめ北西部の絨毯やバクティアリ族の絨毯に見られ、パネル模様にも好んで織り込まれます。 垂れ下がる枝が恋慕や嘆き、はかなさを連想させるしだれ柳はイランの文学や造形芸術にしばしば登場し、親しまれてきました。 『レイラとマジュヌーン』の物語では、狂おしい恋に沈む詩人が柳の木陰に座す情景が繰り返し描かれ、ミニアチュールでも定番主題となります。こうして柳はロマン的意味を帯び、愛や憧憬の象徴となりました。
ゴルダニ(花瓶)
ゴルダニ文様(=花瓶模様)は、花であふれる花瓶を描いた意匠です。宮廷庭園の豊穣美を室内に移したものとされ、生命力や繁栄を象徴します。 起源はサファヴィー朝シャーアッバース時代にさかのぼり、17世紀ケルマン産の作品が特に名高いです。 宮廷風の精緻な花から部族風の素朴な表現まで幅広く、シャーアッバースの花と組み合わせるものや全体に花瓶を繰り返すオールオーバーデザイン、コーナーやメダリオンの一部に織り込まれるものなど、 多彩なバリエーションが見られます。

