さらりと広がる濃淡の茶の静けさに、赤も藍も主張を和らげ息をひそめています。矢模様に囲まれて重なる帯模様はやわらかな輪郭につられるようにゆったりと曲線を描きながら、花を思わせる大小の幾何学模様を鷹揚に浮かべています。
イラン北東部はケルマン州の町、シルジャンで織られたスマックキリムです。スマックとは平織のたて糸に追加の色糸を巻き付けながら文様を織り出していく技法です。キリム織りの中では最も時間と手間がかかり熟練した技術を要するものですが、織りあがりは繊細で美しく、また隙間もなく厚手に仕上がる織り地は非常に丈夫です。
1980年代に織られたというこのキリムは、コットンのたて糸に太めのウールの横糸を用い、スマック織りの中でも厚くしっかりと織り上げられています。一目一目丁寧に進められた織り目はその正確さと糸の太さで、やわらかに流れるモチーフの輪郭をかっちりときれいに描いています。
羊毛の自然なベージュを筆頭に茶のバリエーションを多用して構成されたかに見える文様は、その多くはよく見ると藍や紫、オレンジの染め色が褪色し、まろやかな変化を遂げたものであるのに気が付きます。