ファウンデーションを思わせる薄茶ともオレンジともつかない色彩は、ミルクの白に豆や木の実を溶かしたような繊細で豊かな表情を競い合わせています。
駱駝にクルミ、はしばみ色からレンガ色までほんのひと刷毛の赤み、かすかな濃淡が生む茶のバリエーションの中で、青と空色は爽やかに明るく、風のように清涼な抑揚を散りばめています。
イラン北西部、ダシュテモガンの町で織られたスマックキリムです。スマックとは平織のたて糸に追加の色糸を巻き付けながら文様を織り出していく技法です。キリム織りの中では最も時間と手間がかかり熟練した技術を要するものですが、織りあがりは繊細で美しく、また隙間もなく厚手に仕上がる織り地は非常に丈夫です。
このキリムではウールのたて糸にやわらかめのウールの色糸を使用して、律儀な目運びで丁寧に織り上げられています。淡色の染糸を中心にゆったりと気負わずに並ぶ織り目はよく見ると、枠色のえんじ部分もくっきり描かれた藍とえんじの格子模様も、たて糸を隙間からちらりとも覗かせず、濃くきっちりと織り詰められています。

花や方形、S字を組み合わせた華やかな文様は背景と文様の部分、輪郭線の糸色をきめ細かに入れ変えて無数の配色を紡ぎ出し、やわらかな色調で変化してゆく彩りに同じものはほとんどありません。
遠目にはふわりと明るいピンクベージュを背景に枠模様とひし形の格子が浮かんで見えるデザインは、ちらりと混ざる青みがひそやかに美しく、様式のなかに細やかな機微を浮かべる上質な趣向を感じます。
ほどよい太さのある糸は重なり合ってボリュームを生み、ほってりとした厚みのある織り地はしなやかな重みがあります。端をつかんで持ち上げてみるとしっとりとした弾力が手に伝わり、くにゃりとやわらかながら腰のある丈夫な質感を感じます。表面を撫でてみると織り上がりの糸の細かな毛羽立ちは感じるものの、キリム特有の無骨な印象は薄く、さらりとした手触りです。
上下の端はたて糸を三つ編みにまとめてカラフルなフサを付け、横につないで安定させる手の込んだ仕上げが織り地の縁を美しく飾っています。
ソファーやテーブル、座卓の足元などに。和の空間にもよく映える、質の良い優美なスマックキリムです。